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飲食業者「コロナ対策さじ投げたのか」菅首相退陣に怒りとため息

新型コロナウイルスの緊急事態宣言が出されている真っただ中で、菅義偉首相が自民党総裁選不出馬を表明した。酒提供などの自粛要請に繰り返し応じてきた飲食業者からは「無責任だ」などと厳しい声が上がった。 「コロナ対策にさじを投げたのか」。東京・新橋(港区)の焼き鳥店「山しな」の店長、山科昌彦さん(46)は菅首相の不出馬をニュースで知って、ため息をついた。 緊急事態宣言が出される度にテレビで記者会見を見てきたものの、用意された文章を読み上げているだけのように見えた。「自分の言葉じゃないから重みがない。棒読みで『最後の緊急事態宣言にしたい』と言われても、生活がかかっているので胸には響かない」 最初の緊急事態宣言が出された昨春以来、飲食店は営業時間短縮や酒類の提供停止を断続的に求められており、都内では今年に入ってから通常営業が認められた日はない。山科さんも要請を守り続けているが、8月に感染者が増えると客足は途絶え、客が1人だけの日もあるという。「商売としてはもちろん苦しいですよ。だけどコロナ禍でも安心して食べに来られる場所であり続けたい」と語る。 山科さんは菅首相が就任してからの約1年間でコロナ対策に進展はなかったと感じている。「次に首相になるのが誰かは分からないけれど、飲食店への制約に偏った今のコロナ対策を見直し、国民に寄り添った政策を行ってもらいたい」と強調した。 同じ新橋で居酒屋「根室食堂」を構える店長の平山徳治さん(49)は「僕らは居酒屋を続けていけるのか不安をずっと抱えている。課題が解決できていない今、(首相を)辞めるべきタイミングではないのでは。無責任だ」と語った。 同店も酒類の提供停止や時短の要請に従い続けている。刺し身など海鮮料理が自慢の店にとって酒類の提供停止は致命的で、売り上げは例年の1割以下に落ち込んだ。協力金も支給が遅れ、経営が厳しい状況は続く。客足の回復が見込めず本来ならにぎわい始める午後5時ごろに店を閉める日も増えており「この先どうすればいいかとの不安は尽きない」と声を落とす。 平山さんにとって、自民党の次期総裁選を巡る動きは、直視すべきコロナ対策ではなく政局に力が入っているように感じる。「僕らの立場からするとお祭り騒ぎのようにも見えて、あきれてしまう」。首相が交代することについても「あまり期待ができない。何も変わらないのではないか」と不安を口にした。 今後は新橋の店を存続するために、オーナーを務める都内の別の居酒屋を年内で閉めてスーパーで鮮魚の販売に乗り出すことも決めた。平山さんは「現場の声をしっかりと聞いてくれるような政府に変わってほしい」と願っている。【井口慎太郎、木下翔太郎】
毎日新聞
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